医療だけでは幸せになれない

「メタ分析」が最良のエビデンスとは限らない…出版バイアスと異質性バイアス

「マスク着用個人の判断」になってはや5カ月…(C)日刊ゲンダイ

 次に「異質性バイアス」である。これはメタ分析に対する批判として、ミカンとリンゴを一緒に分析して、いったい何が出てくるのだというものがある。同じような研究であれば一緒にする意味もあるが、バラバラの異質な研究を無理やり一緒にしても、正しい結果が出ることはないという指摘である。

 この異質性バイアスについては論文中にも記載がある。マスクの効果を検討した研究は、手術用マスクであったり、N95マスクであったり、あるいは布マスクであったり、さまざまなものが使われており、それぞれの効果には違いがあることが予想される。にもかかわらず、それを一緒に解析しているという限界がある。あるいはそれぞれの研究で実際のマスク着用率が異なっており、ここにもバイアスの可能性が存在する。

 統合された効果は、布マスクの効果の小ささや、実際の着用率の低さによって過小評価されている可能性もあり、サージカルマスクやN95マスクで、常時着用するような状況では、もっと大きな効果が期待できるかもしれないのである。そうした場合、手術マスクだけの研究での分析、N95マスクだけでの分析などを行うことで対処できる面があるが、そうした解析をするためにはまだ研究が不足しており、この論文では検討されていない。

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名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。

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