医療だけでは幸せになれない

効果を示すさまざまな指標…「正しい指標」があるわけではない

写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 次に絶対危険減少である。これは対照群を基準として両群の差をとった指標で「8.60%-7.63%=0.97%」と計算される。先ほどの相対危険減少の11.6%に比べてかなり小さい値になる。さらにこの絶対危険減少を逆数にしたものが治療必要数で「1÷0.0097=103人」と計算される。1人のコロナ感染を少なくするためには103人にマスクを勧める必要があるということである。

■恣意的な利用に要注意

 ここでひとつ注意が必要である。相対危険は観察期間にかかわらず一定であることが多いが、絶対危険減少、治療必要数は観察期間に依存して、それが短いほど絶対危険減少は小さくなり、治療必要数は大きくなるという点である。このバングラデシュの研究では6カ月間のコロナ発症で検討されており、先ほどの結果は「絶対危険減少0.97%(6カ月)」「治療必要数103人(6カ月)」と観察期間を併記して記載する必要がある。

2 / 4 ページ

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。

関連記事