医療だけでは幸せになれない

インフルとコロナ感染拡大…学校関係者はマスクに関する科学的研究成果を知るべきだ

コホート研究では学校での着用は「効果あり」(C)PIXTA

 これはコホート研究の結果であるので、最も問題になるのは交絡(注4)因子の存在である。マスクを付けるような教師や子供は他にも感染予防をしっかりやっている可能性が高く、それがマスクの効果の過大評価につながる。ただこの研究では多変量解析(注5)が行われており、一応、交絡因子の考慮はされている。

 もちろん、ランダム化比較試験と違って考慮されていない未知の交絡因子の可能性が残る点はコホート研究ではいかんともしがたい。しかしその反面、地域の学校の大部分を調査できるという大きなメリットもある。特殊な人や特殊な地域が参加しがちなランダム化比較試験と異なり、一般的な場所で何が起こっているかについては、コホート研究の方が勝るのである。

 しかしながら、コホート研究の結果とはいえ、相対危険0.12という結果をもたらすような大きなバイアスの可能性は低いかもしれない。ただ秋のワクチン後には効果が見られなかったという結果からすれば、この相対危険0.12はやはり効果を過大評価した極端な結果である可能性もある。結果の解釈にはさまざまな困難がある。

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名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。

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