独白 愉快な“病人”たち

コラムニスト 神足裕司さん (56) くも膜下出血 ㊦

(C)日刊ゲンダイ

 動けなくなって感じているのは、人間というのは本当にさまざまなことを同時に考え、ひとつのことをしているということ。僕はそれができない。トイレに行きたいのに、トイレに行きたいと言えない。そう紙に書くことも思い浮かばない。

 トイレの時は大騒ぎですよ。うんこがしたくなる。すぐそこまでうんこが来ているので緊急事態。車椅子の上でうんこをストップさせるために、尻をずらす。家族の方を見るけど、テレビを見ていてみんな気付かない。「うんこだってば!」と心の声で叫んでも、聞こえない。もう駄目だ、と思った時にようやく気付いてもらい、猛ダッシュで車椅子を息子が押してトイレに連れて行ってくれる――。

 ところが、うんこと違っておしっこは出るタイミングが分からないんですよ。ヘルパーさんにおむつを開いておしりを拭いてもらっている時に、前触れもなく出ちゃう。情けないけど仕方ない。人間の体は不思議なものだと思い、自分が生きていることを実感します。切なくて、おかしくて、涙が出てしまうんです。

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