天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

患者が改めて教えてくれたエビデンスに基づく手術の重要性

順天堂大学医学部の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

■治療の進捗の流れに乗ることができる

 これは、本来の血液の流れを変える「非解剖学的バイパス術」というもので、一般的には行われません。しかし、胸とお腹を別々に開かずに済むので患者さんの負担が少ないという判断と、血流の大本の部分からバイパスを通せば血管が詰まりにくくなるだろうという考えから選択された方法です。

 手術は無事に終わり、症状も改善されて患者さんは退院されました。しかし、手術から12年後、その患者さんが80歳を越える頃に心臓と足に同じ症状が再発し、再手術が必要な状況になったのです。非常に動脈硬化が強い患者さんだったのですが、バイパスに使った左内胸動脈は太く成長していたものの、もう片方のバイパスに使った足の静脈は詰まっていました。さらに、右足のバイパスに使った人工血管も詰まっていたうえ、左足の血管も詰まってしまっていました。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。