一方で、心臓にメスを入れたにもかかわらず、術後に心房細動が表れない患者さんもいて、これはメスで切開した部分が大きく影響しています。たとえば僧帽弁の手術では、左心房の天井部分にメスを入れると、術後に心房細動を起こしやすくなるのです。そのため、私はそこを外した場所にメスを入れるようにしていますが、その場所の切開は、心房細動治療手術である「メイズ手術」の切開線の一部ということが後になって分かりました。
また当然ですが、手術する時点で心房細動の既往があれば、術後にできるだけきれいな脈=洞調律に戻すことと、脳梗塞予防を目的として同時にアブレーションやメイズ手術を行うケースもあります。
しかし、二十数年前はメスを入れる箇所によって術後に心房細動が起こりやすくなる場合があるということがよく分かっていませんでした。そもそも心房細動の外科治療そのものがまだ手探りな状況でした。そのため、その頃に心臓手術を受けた患者さんの中で、今になって心房細動が表れるケースが出てきているのです。
天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」