がんと向き合い生きていく

「標準治療」には患者の意志が尊重されているのだろうか

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 Aさんは、約3週間後には血小板数が16万7000まで回復し、貧血と全身痛も改善しました。そして、1カ月後には退院して、職場復帰できたのです。病気が完全に治ったわけではなく、約6カ月後には再度悪化しましたが、こうした治療は緩和的化学療法としてとても有用でした。

 1月3日の午前中、入院しているAさんを診察し、ようやく落ち着いてきたのを確認して安心できた私は、午後から一家4人で近くの神社に初詣に行きました。その帰り道、着物姿の幼い娘と息子は何も知らないのですが、破魔矢の鈴の音に合わせて私と一緒に大声で「大丈夫だ! 大丈夫だ!」と繰り返しながら歩きました。妻は「恥ずかしい」と呆れていました。

「標準治療がすべてではない」、そんなことを考えさせられる思い出です。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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