がんと向き合い生きていく

「心のう水」を抜くのは専門の循環器医でなければ難しい

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 しばらくして、Nさんは退院して外来通院となりました。経過は良く、さらに2回、心のうへの管から抗がん剤を注入した後、感染の危険から液がたまっていないのを確認して管を抜きました。 その後、約4カ月間は良好でした。しかし、5カ月目に入った頃、軽い息苦しさが表れました。胸部エックス線写真では、再度心陰影が大きくなり、心のう水がたまってきていました。

■自宅に帰る希望をかなえられなかった

 私は「このままでは危ない。また心のうに管を入れて治療し、元気になろう」と入院を勧めました。しかし、Nさんは入院を嫌がって「家にいる」と言うのです。ただ、Nさんの自宅近くには往診してくれる医院は見つかりませんでした。

 急に苦しくなった時、夜に救急車で病院に来ても、当直医は胸水なら抜けるが、心のう水を抜くのは専門の循環器医でないと難しいこと、心のう水で苦しい場合は酸素吸入では治まらないことなどを話して入院の説得を続け、やっと3日後に入院することになりました。Nさんは、同室の患者さんに「私は先生の言うことを聞いてあげたの。先生のために少しだけの入院なの」と話していたそうです。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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