がんと向き合い生きていく

抗がん剤治療で数カ月長生きすることに意味があるのか?

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 これまで、たくさんの膵臓がん患者の診療を行ってきました。15年ほど前までは、膵臓がんに対して抗がん剤治療は延命効果もなく、つらさを軽減する緩和治療も今に比べれば貧弱な時代でした。当時、黄疸が出ている場合はこれを取るために肝臓に直接管を入れて胆汁を出すのがせいぜいの治療で、抗がん剤治療は勧めませんでした。

 しかし、今は違います。新しい治療薬が開発され、体のつらさを取る緩和医療も発達しました。確かに、今の抗がん剤治療では手術不能な膵臓がんは治せません。

 でも、この場合の「延命」とは、意識のない状態での延命とは違うのです。体が良い状態を保ちながら、治療で良くなって「生きている実感がある」と話される患者さんがたくさんいらっしゃいます。治療を受けないで死を待つような気持ちでいるよりも、ずっといいと思うのです。

 日本では、多くの方は宗教の信仰がありません。それでいて、科学的根拠に基づいた治療法があるのにそれを拒否して、短い余命を告げられ、死に向かってどう生きていこうというのでしょうか? 生きていてこそ、幸せを感じるチャンスがあるのです。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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