がんと向き合い生きていく

生後2カ月でお腹にがんができた女の子に思った「命の価値」

佐々木常雄院長(C)日刊ゲンダイ

 Tちゃんは、眠ったままのように見えて、まったく反応はありません。それでも、苦しそうな表情ではありません。穏やかに、リラックスしているようにも見えました。

■みんなが一緒になって共に病気と闘ってきたことが分かった

 なぜか分かりませんが、私はふと思いました。

「そうだ、この子はこの世に生まれてきた意味があったのだ」

 最初は「この子は、生まれてからずっとずっとがんで治療を受け、途中で意識もなくなって、それで1年……。そしていまや死が近い。なんのために生まれてきたのか。この子の命は何だったのか?」という考えが頭に浮かんだのですが、「そうではない。この子が生まれた価値はあったのだ」と思ったのです。

「たくさんの医療費がかかり、たくさんの人に迷惑をかけて、そして死んでいくだけ……いや、そうではないのだ」

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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