上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

最新の研究で「拡張障害型心不全」に新たな治療の可能性

順天堂大学医学部心臓血管外科の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 拡張障害型に対しては、決定的な治療法もまだ確立していないのが現状です。筋芽細胞シートを使って線維化してしまった心筋を元に戻す再生医療の研究が進んでいますが、すべてのケースに有効なわけではありません。一般的には、ARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬)やβ遮断薬といった心不全に有効とされている薬をうまく組み合わせて対処するくらいしか手だてがありません。バイパス手術などの治療を行っても、心筋が線維に置き換わっていってしまう状況を止められないのです。

■心筋が線維化する一因がわかってきた

 先月、そうした現状を打破する手がかりになりそうな研究が報告されました。名古屋大学と国立循環器病センター研究所のグループが、心筋の線維化には線維芽細胞の細胞膜にある分子「メフリン」が大きく関わっていると明らかにしました。メフリンの減少が心筋の線維化を誘導して心臓を硬くしてしまい、拡張障害型の発症につながることがわかったのです。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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