上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

「医療安全」と「EBM」は医療従事者を守るという側面もある

天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 前回までにお話ししたように、患者さんを守るための「医療安全」や「EBM(根拠に基づく医療)」という考え方が登場したのは1990年代からで、広く浸透したのはコンピューターが普及した2000年以降といっていいでしょう。それまでは、医師の経験や勘、習慣や伝統に頼った医療が主流でした。客観的な大規模データが不足していたからです。

 そうした客観的な大規模データをベースにして、患者さんによりエビデンス(科学的根拠)の高い治療を提供するために各学会でガイドラインが作成され、標準治療という考え方が浸透してきたことによって、ここ10年ほどは医師を育成する医学教育の段階から、医療安全やEBMの重要性を教えていくようになりました。

 私が医学生だった1970年代後半は、もちろん医療安全やEBMといった考え方はありません。人々を集合として捉え、国や市町村といった社会レベルで健康を扱う「公衆衛生」と呼ばれる分野はありましたが、個人レベルで健康を扱う臨床医学が中心でした。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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