がんと向き合い生きていく

乳がんで妻を亡くし「時間が解決してくれる」と言われたが…

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 そう、Aさんは思いました。

 奥さまのご遺体は病院から斎場に運ばれ、Aさん、娘、息子の3人で骨を拾いました。がんの転移があったという背骨を特に気をつけて見てみましたが、あまりよく分かりませんでした。

 葬儀も3人だけの家族葬で済ませました。奥さまには姉がいますが、北海道に住んでいて来られませんでした。電話で亡くなったことを伝えた時、「コロナだから行くことができない。5年間、大変でしたね。ご苦労さまでした」とねぎらいの言葉をかけられました。

 息子と娘は、3泊してそれぞれ暮らしている仙台と名古屋に帰っていきました。それからは、Aさんひとりになりました。自宅に残ったのは、机の上に置いた白い布で包まれた骨箱、遺影、斎場から持ち帰ったお花だけです。ろうそくをつけ、線香をあげ、リンを鳴らすと、チーンという音が長く響きました。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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