そう、Aさんは思いました。
奥さまのご遺体は病院から斎場に運ばれ、Aさん、娘、息子の3人で骨を拾いました。がんの転移があったという背骨を特に気をつけて見てみましたが、あまりよく分かりませんでした。
葬儀も3人だけの家族葬で済ませました。奥さまには姉がいますが、北海道に住んでいて来られませんでした。電話で亡くなったことを伝えた時、「コロナだから行くことができない。5年間、大変でしたね。ご苦労さまでした」とねぎらいの言葉をかけられました。
息子と娘は、3泊してそれぞれ暮らしている仙台と名古屋に帰っていきました。それからは、Aさんひとりになりました。自宅に残ったのは、机の上に置いた白い布で包まれた骨箱、遺影、斎場から持ち帰ったお花だけです。ろうそくをつけ、線香をあげ、リンを鳴らすと、チーンという音が長く響きました。
がんと向き合い生きていく