がんと向き合い生きていく

乳がんで妻を亡くし「時間が解決してくれる」と言われたが…

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 日々、声を出すことなく「時間が解決してくれる」とつぶやきながら、長い一日が過ぎていきます。

■初めて話した隣人が同郷だった

 それから1カ月ほど経ったある日、故郷の同級生からサクランボが送られてきました。毎年送ってくれていて、今年も2箱でした。Aさんは数個食べれば十分で、いつもは奥さんがほとんどすべて食べていました。

「赤く輝いているこの実がこのまま悪くなってしまうのはもったいない」

 そう思ったAさんは、1箱を手に隣の家を訪ねました。特に親しいわけでもなく、普段は顔を合わせた時に挨拶するだけの間柄です。

 玄関のチャイムを鳴らすと、旦那さんが出てきました。

「山形のサクランボですか、ありがとうございます。私も山形の出身なんですよ。そうでしたか。私は○○高校卒業です。あなたどちらですか?」

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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