Dr.中川 がんサバイバーの知恵

瀬戸内寂聴さんが生前に断言していた がん患者のリハビリの大切さ

常に前向きだった瀬戸内寂聴さん(C)日刊ゲンダイ

 このように筋力や身体機能が低下している状態は、サルコペニアと呼ばれ、寝たきりや術後は要注意。高齢者はなおさらです。そこにがんが重なると、二重苦、三重苦になります。

 がん細胞は、全身の脂肪や筋肉を分解し、糖を取り込んで増殖。これによって引き起こされる栄養障害ががん悪液質で、がん患者が痩せるゆえんです。術後の寝たきりで筋力が低下した上、がん悪液質のダブルパンチでは、少し動いただけで多くのエネルギーが消費されて疲れやすく、疲れやすいから動かない。動かないから、余計に体力が低下するという悪循環に陥るのです。

 この負の連鎖を断ち切るには、運動によるリハビリと十分な栄養管理が必要不可欠。その点でも寂聴さんはすばらしかったと思います。

 文春の記事によると、退院後すぐにリハビリを開始。療法士の指導で毎日1時間、足の指を動かすなど簡単なことから始め、足に風船を挟むなど少しずつ筋力をつけたそうです。術後4カ月後の検査は、自分でタクシーに乗って行けたほど回復したといいます。

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中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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