Dr.中川 がんサバイバーの知恵

西郷輝彦さん急逝 前立腺がんは「NET化」すると1年生存率27%

西郷輝彦さん(C)日刊ゲンダイ

 PSMA治療は、前立腺がんと転移部分のみに集まる放射性薬剤を用いた放射線治療のこと。西郷さんはそれを3回受ける予定で渡豪したそうで、注目はその経過です。1回目は効果がない上、PSA値が上昇。2回目で「がんが消えた」といいます。

 西郷さんがユーチューブに投稿された画像を拝見すると、胸の病巣の一部は確かに改善しているように見えますが、上腕骨にはがんの骨髄への浸潤と思われる影が確認できます。しかも、「がんが消えた」とする一方で、PSA値は800まで上昇したそうです。

 その経過から推察されるのは、前立腺がん細胞の一部が変異した可能性です。PSMA治療は、変異する前の細胞の性質に反応するため、変異した細胞には効きにくくなります。そうすると、同じ治療に対し、一部の転移病巣に効果があり、ほかには効果がないということがまれですが、起こりうるのです。そうだとすると、変異前の治療なら、より効果的だったかもしれません。

2 / 3 ページ

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

関連記事