がんと向き合い生きていく

個々のがんに合った薬剤「抗体薬物複合体」の開発が進んでいる

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 また、「パドセブ」(一般名エンホルツマブベドチン)は、細胞間の接着に関連するタンパク質であるネクチン-4を標的とした抗体薬物複合体です。ネクチン-4と結合することで細胞殺傷物質が放出され、がん細胞の増殖抑制と細胞死を誘導して効果を発揮します。ネクチン-4は尿路上皮がん細胞に多く発現することから、膀胱がんなどに使われます。

 このように、がん細胞表面に特殊なタンパク質の発現があれば、そのタンパク質に対する抗原抗体反応を利用した抗体薬物複合体ががん細胞に結合し、効果を発揮します。

 近年は、こうした免疫を利用した抗がん薬が開発されているのです。

 これまでは、たくさんの患者の治療成績の統計から標準治療が決められてきましたが、科学技術や遺伝子工学の進歩によって、より個々のがんに合った個別治療の薬剤開発が進んでいます。さらに多くの種類の、それぞれのがんに対しての薬剤の開発が期待されます。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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