がんと向き合い生きていく

治療ガイドラインはエビデンス=科学的な証拠を基につくられる

写真はイメージ

 じつは1990年代に、海外で以下のような臨床試験が行われていました。胃がんに対して抗がん剤治療は延命効果があるかどうかを明らかにするための臨床試験です。手術ができないほど進行した胃がん患者で、体の一般状態が悪くなく(まったく症状がないか、あってもベッドにいるのが1日の半分以下の状態)、抗がん剤治療の経験がなく、抗がん剤治療ができると判断された患者に対して、くじ引きで「抗がん剤治療をする群」と「抗がん剤治療をしない群」とに分け、どちらが長く生きるかを比較したものです。この試験が3つ実施されました。

 その結果、3つの試験とも生存期間の中央値は抗がん剤治療群が、治療しない群の約3倍の長さでした(有意差あり)。このようなくじ引き(ランダム化比較)試験で、3つの試験すべてが同じ結果になったことから、統計上、科学的に最も強い証拠(エビデンス)として抗がん剤治療が、無治療よりも延命効果があると証明されました。それ以降、進行した胃がんで抗がん剤治療を行ったことのない患者に対して、くじ引きで治療する群と治療しない群に振り分けるような比較試験は人道上も行われていません。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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