「必要にして十分、要するに適度の治療が施された遺体には、それらを見事に反映している実像・所見、といったものがあることに気づくようになりました。そして、このように適度な医療が施された後の遺体には、その内臓には、それなりの美しさが感じられることに気付いた次第であります。……たとい最新の先端的治療が施された後であっても、それが適度であれば、そこに残されている変化は概して古典的で、自然です。すなわち必要にして十分な治療の結果は、その疾患の結末として起こるべくして起こった変化の集まりであり、あまり大きな修飾は感じられないように思われます。別な言葉を用いるならば、節度ある医療の結果と申せましょう。では、このようなものを何故『美しい』と感じるのか、それはまったく不思議なことで、実は私にも分からないのです」
森先生は解剖を担当され、そのご遺体から「美しい死」を感じたのです。
がんと向き合い生きていく