がんと向き合い生きていく

担当医の栄転を手放しには祝福できない…がん患者の複雑な心境

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 一方では、「コロナ流行の中でも、健診に行って良かったのだ。あそこでがんが見つかったのだから、自分は幸運だったのだ。神様が助けてくれたのかもしれない」とも考えました。また、周囲からは手術を受ける前にセカンドオピニオンを勧められましたが、S医師の説明で納得がいったうえ、コロナが蔓延する中でクラスターが出ている病院もあり、あえて他の病院に行く気にはなれませんでした。

 Bさんは、3年前に健診で腹部に腫瘤があることが疑われ、胃と大腸の内視鏡検査、CT検査を行い、さらにはMRI検査とPET検査で膵臓がんが疑われ、手術となったのでした。

 手術はS医師が担当してくれました。結果はやはり膵臓がんで、それでも「残さず完全に取りきれた」と言われました。

 手術後は、抗がん剤の薬物治療を行いました。食事が細くなり、下痢っぽくなったこと、体重が8キロ減ったなどの影響が表れ、体の症状のことはS医師になんでも話しました。忙しいのに、たくさんの患者が待っているのに、S医師はいつも親身になって相談にのってくれ、考えていろいろな指示をしてくれました。そして、これまで再発なく過ごしてきました。ですから、BさんはS医師にとても感謝していたのです。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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