ほかにも抗がん剤治療中の心臓弁膜症も判断に迷うケースが少なくありません。その時点での弁膜症がそれほど悪化していない段階でも、抗がん剤の影響で心機能が低下すると予想以上に悪化する場合があり、それをなんとかしないといけない状況があるのです。
さらに“現病の予後”についても考えなければなりません。抗がん剤治療によってがんが一時的に寛解したとしても、その後どれくらい余命があるのかを考慮する必要があるのです。
たとえば心臓の手術を行えば、きちんと回復して日常生活に戻るまで2カ月くらいの期間が必要です。がんを治療したあとでも1年しか生きられないとしたら、そのうちの2カ月をほぼ寝たきり状態になる心臓治療の療養に割いてしまっていいのか、という問題があるわけです。
こうした難しい問題がいくつもあるからこそ、さきほどお話しした腫瘍循環器学のさらなる発展が期待されます。
上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」