老親・家族 在宅での看取り方

最期が近づいているなら…治療によるつらさからは解放してあげたい

写真はイメージ

 私は最期に「ありがとう」と言い合える人間関係が好きです。もし私自身がその時を迎えたら、心からそう言えるように今を生きていきたいとも考えています。

 東京の城北地域の住宅地に、80歳手前のご夫婦がお住まいになっていました。

 若い頃に今の場所に一軒家を構え、やがて子供たちはみんな巣立ち、2人で静かな生活を送っていました。

 ご主人は野球とたばこが大好き。7~8年前に脳梗塞の発作を起こし、右足のまひと言語障害が残りました。また、奥さまは大病を経験。2人ともまったくの健康体ではないものの、お互いを思いやり、いつも笑顔。楽しそうに会話を交わしながら、日々を過ごされていました。2人で散歩に出掛けるのが日課だったそうです。

 ご主人に息切れの症状が出てきたのは3年ほど前。病院で慢性心不全と診断されました。歩くのが不自由で通院は難しい。病院からは自分で訪問診療の先生を探すようにと言われたとのことで、ケアマネジャーさん経由で当院に依頼がありました。仲の良いお2人に会うのは私にとっても楽しみなこと。しかし今年に入り、ご主人は徐々にベッドで過ごす時間が長くなってきました。そしてとうとう、奥さん、息子さん夫婦に、最期の時が近づいてきていることを伝える日がやってきました。

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下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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