正解のリハビリ、最善の介護

「全身管理」を行えるリハビリ医が欠かせないのはなぜか?

「ねりま健育病院」院長の酒向正春氏(C)日刊ゲンダイ

■重症心不全の患者が驚くほど元気になった

 先ほどの患者さんは、「歩きたい」「しゃべりたい」「復職したい」という希望をお持ちでした。ですから、「うちではつらくない程度に歩かせますよ」と、すぐに歩行のリハビリを開始しました。もちろん、モニターや検査で状態を確認しながら実施します。定期的エコーでEF(左室駆出率)が悪化していないかどうか、月2回のレントゲンで肺水腫によって肺にたまった液体が増えていないかどうか、毎月の採血でBNP(心臓に負担がかかると心室などから分泌されるホルモン)が高くなっていないかどうか、運動機能やADL(日常生活動作)が毎週どのくらい向上してきたか……客観的な数値をきちんとチェックしながらリハビリを進めていきます。

 すると、最初はベッド周囲の数メートルしか歩けなかった患者さんが、100メートル歩けるようになり、400メートルでも問題なくなりました。最終的には、無理だとされていた階段昇降も月1回は最大能力を評価し、どのくらいの負荷までなら大丈夫なのかを見極め、本人に「ここまでなら問題ありません」とお伝えして、自信を持ってもらったうえで退院してもらいました。入院時16%だったEFは、退院時に42%まで改善していました。リハビリ前とは見違えるほど元気になられた患者さんの姿を見て、前の病院の担当医は改善度にびっくりされていたそうです。

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酒向正春

酒向正春

愛媛大学医学部卒。日本リハビリテーション医学会・脳神経外科学会・脳卒中学会・認知症学会専門医。1987年に脳卒中治療を専門とする脳神経外科医になる。97~2000年に北欧で脳卒中病態生理学を研究。初台リハビリテーション病院脳卒中診療科長を務めた04年に脳科学リハビリ医へ転向。12年に副院長・回復期リハビリセンター長として世田谷記念病院を新設。NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」(第200回)で特集され、「攻めのリハビリ」が注目される。17年から大泉学園複合施設責任者・ねりま健育会病院院長を務める。著書に「患者の心がけ」(光文社新書)などがある。

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