正解のリハビリ、最善の介護

全身が硬直して動かせない患者のリハビリはどんな方法で行われるのか

「ねりま健育病院」院長の酒向正春氏(C)日刊ゲンダイ

 これを根気よく繰り返した結果、2カ月後には自分で歩けるようになり、意識レベルも向上し、日常の簡単な動作も自分でできるようになりました。体全体が硬直して、まったく寝たきりだった患者さんが、自分で立って、歩いて、しゃべって、生活できるようになるのですから、ご家族はびっくりしていました。

 体が硬直して動かなくなっている場合、ボツリヌス毒素を成分とするボトックスという薬剤を注射して筋肉の緊張を和らげる方法もありますが、ボトックスで治療できるのは、基本的には腕1本や足1本といった程度です。そのため、前述した患者さんのように四肢に強い痙縮があると改善は難しい。そういった場合はバクロフェン髄注療法が有効なのです。

 ただ、バクロフェンを投与するだけでは、廃用症候群と弛緩した筋力低下が残り、そこまで機能と能力を取り戻すことはできません。そこで、積極的な攻めのリハビリが必要になります。これまでお話ししてきたように、座らせる、立たせる、歩かせる訓練を繰り返し、筋力や筋耐久性を向上させていくのはもちろん、積極的にコミュニケーションを図って脳に刺激を与えることも重要なポイントです。

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酒向正春

酒向正春

愛媛大学医学部卒。日本リハビリテーション医学会・脳神経外科学会・脳卒中学会・認知症学会専門医。1987年に脳卒中治療を専門とする脳神経外科医になる。97~2000年に北欧で脳卒中病態生理学を研究。初台リハビリテーション病院脳卒中診療科長を務めた04年に脳科学リハビリ医へ転向。12年に副院長・回復期リハビリセンター長として世田谷記念病院を新設。NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」(第200回)で特集され、「攻めのリハビリ」が注目される。17年から大泉学園複合施設責任者・ねりま健育会病院院長を務める。著書に「患者の心がけ」(光文社新書)などがある。

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