第一人者が教える 認知症のすべて

定年後…一方は人生を謳歌し、一方は内向き生活で認知症に

写真はイメージ

「いつの間にそんなに近所の知り合いの輪が広がったの、と驚きました」(Aさん)

 一方、父親より5歳年下の母親は、65歳まで働き、定年退職。「仕事を辞めたら旅行でも行こうかな」と話していたのが、リタイアした途端に気が抜けたようで、どこにも出かけようとしない。父親の話によれば、一日ぼんやりとテレビを見ていて、お化粧もしなくなった。

 畑仕事に誘っても「だるいから」「めまいがするから」「なんだか調子が悪いから」……。

 そんな生活が1、2年続き、「お母さんの様子がおかしい」と父親からの連絡でAさんが様子を見に行った時は、認知症を疑う症状が出ていました。

 なかなか病院に行ってくれず、アルツハイマー型認知症と診断されたのは約半年後。それから5年、Aさんは父親、大阪に住む妹と協力し、高知県と兵庫県を行き来し、母親の介護をしています。

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新井平伊

新井平伊

1984年、順天堂大学大学院医学研究科修了。東京都精神医学総合研究所精神薬理部門主任研究員、順天堂大学医学部講師、順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学教授を経て、2019年からアルツクリニック東京院長。順天堂大学医学部名誉教授。アルツハイマー病の基礎と研究を中心とした老年精神医学が専門。日本老年精神医学会前理事長。1999年、当時日本で唯一の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。2019年、世界に先駆けてアミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を導入した。著書に「脳寿命を延ばす 認知症にならない18の方法」(文春新書)など。

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