がんと向き合い生きていく

治療を中断したのに「また再開を」と希望する患者もいる

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 担当医はCさんの熱心な訴えを聞き入れ、「分かりました。それならやめてみましょう」と治療は中止されました。

 それから4カ月たった晩秋の寒い日でした。定期検診でCT検査が行われた後、担当医の診察となりました。電子カルテで今回のCT画像を見ながらの説明です。

「転移の一つ一つが大きくなっています。一番大きいもので2・5センチくらいでしょうか」

 担当医が示すたくさんの丸い影はCさんにも明らかに分かり、大粒の雪が降っているように見えました。Cさんはしばらく無言でしたが、思い立ったようにこう口にされました。

「先生、治療をまた始めましょう。よく効く薬ならやってみましょう。副作用もなかったし、今日からまた処方をお願いします」

 担当医は、内心で「え? この間は、あんなに熱心に『治療しない』と言われたのに……」と思ったそうですが、結局、治療を再開することになったのです。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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