がんと向き合い生きていく

大きな病院から捨てられた…そんな思いを抱く患者もいる

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 AさんがB病院に移ってすぐに気付いたのは、建物の古さ、暗さ、壁の染み、トイレが遠いことなどでした。それなのに、個室料金はF病院と同じでした。Aさんは、「自分はF病院に捨てられた……」と家族に漏らしたといいます。

 私は以前、B病院を訪ねたことがあり、その古い建物とF病院を思い浮かべると、「なるほど」と納得してしまいました。

■転院を勧められた施設でギャップを感じる

 この10年余り、がん対策基本法・基本計画もあって、がん拠点病院などの大病院は立派な建物と設備、スタッフも充実したところが多くなりました。大病院にはがん患者がたくさん集まり、がんの種類や進行度、治療法などによって異なりますが、短い入院期間で、多くは外来での治療が中心になります。

 もし、治療が困難となり、がんが悪化して入院期間が長くなりそうになった場合、病状などにもより、これも一概には言えないのですが、在宅医療とかホスピス、あるいは中小規模の病院へ移るのを勧められることがあります。患者は、以前から覚悟はできていたとしても、この時はいよいよ死が迫ったことを実感し、心は大変なことになっていると思います。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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