がんと向き合い生きていく

無理な「在宅」で最期まで“自分らしい暮らし”ができるのか

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

「施設に勤めている人は8時間の勤務時間で解放される。大変な仕事だけれど、きっとそれで優しくしてあげられるのだと思う。それが2人を在宅で24時間、いつまで続くか分からない。赤ちゃんのおむつを取り替えるのとは違うのよ」

 妻は私にこう言っていました。

 時には、ショートステイで1週間ほど2人を施設に預かってもらいました。しかし、その時は妻の体の負担は癒やされても、心の負担は癒やされませんでした。

「自分は優しくしてあげたいのに……」

 妻は時々、父母に厳しいことを言ってしまって、2階に上がってひとり自分の情けなさに泣いたといいます。そして、こんなことを言い出したのです。

「ノイローゼになってしまいそう……私が先に死ぬ」

■親に向かって大きな声を出す自分が情けなくなった

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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