あの時は初夏でしたが、ゴツゴツした岩の間からモウモウと水蒸気が湧き、硫黄のにおいが充満していてそれなりの雰囲気がありました。ここの温泉は酸性が強い点が特徴のようです。
ところが、温泉につかる人よりも岩盤浴ができるテントに向かう人が多く見られました。岩から微量の放射線が出るらしいのです。
私にはこれががんに効くとはとても考えられないのですが、ゴザやシートを包んで持ち、あるいは肩に掛けてテントの方に向かう人、戻ってくる人の列がありました。
私はこの無言の列を遠くから眺めていました。楽しんでいるのなら良いのだが、頭を下げて前かがみになった方々は、悲壮な気持ちでおられるのではないか……と複雑な思いに駆られました。
温泉といえば、がん対策の会議でご一緒させていただいた評論家の俵萌子さんが参加されていた「1・2の3で温泉に入る会」を思い出します。「乳がんで乳房のない女性が7~8人一緒になって温泉に入る会なのです」と、とても楽しそうに話してくださいました。
がんと向き合い生きていく