死なせる医療 訪問診療医が立ち会った人生の最期

医者も忌み嫌う「死の現実」自分の身に起こると理解しない

小堀鷗一郎医師(C)日刊ゲンダイ

「神戸に住む女性が、身寄りのない人たちが最期を迎える施設(みとりの家)を造ろうとしたことがありました。ところが地元住民たちの猛反対で実現できなかった。自分たちの生活圏で、大勢の人が死を迎えるような施設ができることを拒んだのです。住み慣れた賃貸住宅で最期を迎えたいと希望した一人暮らしの男性が、『孤独死は事故物件になる』と大家に反対されたこともありましたね」

 ある高校の講演会にスピーカーとして招かれた時もそうだった。

「この時は『あなたはどこで死にたいですか』をテーマにしようと準備を進めていました。高校生にも死という現実と向き合ってもらいたかったからです。ところが『死を連想させる話は高校生に向かない』と校長先生に反対され、テーマを変えることを要求された。人は必ず死にます。それなのに今の日本では、死について思いを巡らすことを嫌う。死は、自分の身に起こることだと理解しようとしない。どこか他人事なのです」

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小堀鷗一郎

小堀鷗一郎

1938年、東京生まれ。東大医学部卒。東大医学部付属病院第1外科を経て国立国際医療センターに勤務し、同病院長を最後に65歳で定年退職。埼玉県新座市の堀ノ内病院で訪問診療に携わるようになる。母方の祖父は森鴎外。著書に「死を生きた人びと 訪問診療医と355人の患者」(みすず書房)。

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