独白 愉快な“病人”たち

白血病と闘う能楽師の武田文志さん「医学の進歩を知った」

観世流能楽師の武田文志さん(C)日刊ゲンダイ

 先生からお話を聞くまでは「死」もちらつきました。でも、私の根本には「いついかなるときも怖いのは2次災害だ」という考え方があり、それが幸いしました。ここでいう2次災害は、精神的に病むことです。私が実践した回避法は、まずは自分を優先して考えたこと。常識やしがらみをいったんよけて、自分の気持ちに正直になったのです。頭に浮かんできたのは能のことばかりでした。以来、「今生は能に捧げた人生」と言っています。

 よくよく考えると、20代までは「自分のための能」、30代に入ると「能のための自分」でした。そして、白血病を境に能と自分の関係はさらに変化しました。そもそも能は「人々の寿命を永らえさせ、幸せを増長させること」を目指す芸。シンプルに言えば「世のため人のため」にあります。私が病気をしたのも罰ではなく、世のため人のために生かせる経験だったと捉えました。これまで以上に人々の寿命を永らえさせ、幸せを増長させるよう活動していくのが私の役目だと感じています。

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