人生に勝つ性教育講座

名画「愛と哀しみの果て」では語られなかった主人公の感染症

 ちなみに、梅毒の特効薬「サルバルサン」が発見されたのは1910年です。ドイツのフランクフルトにあった国立実験治療研究所所長のパウル・エールリッヒ博士と日本人医師・秦佐八郎が協力して発見しました。2人の出会いはベルリンで開催された万国衛生学会でした。左八郎が危険なペスト菌を8年も研究していたことを聞いて、エールリッヒ博士が佐八郎をスカウトしたのです。2人は「微生物には親和性があり、人間の細胞には親和性がない」――つまり「微生物は殺し、人間には無害」な薬を作るための研究を始めます。そのときターゲットにしたのが、発見されて間もない梅毒のトレボネーマ・パリダムだったのです。

 ただし、サルバルサンは副作用が強い、という欠点がありました。そのためすぐにネオ・サルバルサンが作られ、梅毒治療が進むようになります。1928年にペニシリンが発見され、動物実験を経て抗菌作用が1940年に発表され、1942年にベンジルペニシリンが実用化されるまでは、サルバルサンが梅毒の標準的な治療薬だったのです。

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尾上泰彦

尾上泰彦

性感染症専門医療機関「プライベートケアクリニック東京」院長。日大医学部卒。医学博士。日本性感染症学会(功労会員)、(財)性の健康医学財団(代議員)、厚生労働省エイズ対策研究事業「性感染症患者のHIV感染と行動のモニタリングに関する研究」共同研究者、川崎STI研究会代表世話人などを務め、日本の性感染症予防・治療を牽引している。著書も多く、近著に「性感染症 プライベートゾーンの怖い医学」(角川新書)がある。

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