がんと向き合い生きていく

空腹ホルモン「グレリン」はがん治療と大きく関係している

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 1カ月後の外来診察では、Dさんは頭をかきながら診察室に入ってきました。スナック菓子はかなり控えたと言っていましたが、体重は減っていません。私はちょっと“脅し”のつもりで、「半年経って3キロ以上痩せなければ、外科に頼んで胃の手術をしてもらいましょう」と言ってみました。すると、Dさんは少し驚いたように「胃の手術で痩せるのですか?」と聞くのです。

 そこからこんなやりとりが続きました。

「胃を小さくすれば、食べる量も減るでしょう。それからね、胃の手術をすると食欲が減る効果もあるんですよ。グレリンという胃から出る空腹ホルモンがあって、胃の手術でグレリンを分泌するところを切除すると、食欲が減る効果があるんです」

「分かりました。でも、手術はしません。スナック菓子はきっぱりやめます」

「肥満は、内臓脂肪がたまって肝臓にも腎臓にも肺にも良くありません。コロナ感染でも肺炎がひどくなりやすいのです」 その後、Dさんは真面目に外来診察を受けに来るのですが、なかなか痩せません。普段からもっと歩くことや、定期的な運動を勧めています。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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