がんと向き合い生きていく

医師の原点“慈しみ”の対極にあるのが“怨み”なのだろうか

写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 ある病院のスタッフからこんなメールが届きました。

「先生、コロナ感染者がまた増えてきています。昨日から近くの内科医院のM先生が陽性となって休診されています。とっても気をつけている先生だと思っていましたが、どうも家族から感染したようです」

 コロナ流行から3年たちますが、まだ続いています。M先生は、病院に勤務していた時は消化器がんを専門とされていました。とても熱心に診療される医師で、先日はこんな話をしてくれました。

「私の医師としての理想、原点はマザー・テレサです。ひとりひとりの魂の触れ合いです。『慈しみ』と思っています。ところが、今はコロナ流行の影響で、遠隔診療やWEB診療が勧められています。WEBでは、患者と医師が同じ空気を吸っていませんから、なかなか病状が分かりにくいのです。いくら立派な設備ができても、WEBは機械にしかすぎません。聴診器で、以前のような診療がしたいです。もちろん、しっかり診察しているつもりですが、診察していて、コロナ感染者と分かると、なるべく早く離れようとしている自分に気づくことがあります。情けないですが、防護衣を着て完全防御装備をしていても、以前のように時間をかけて患者さんと余計な話をしているわけにはいきません。スタッフにも迷惑になります」

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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