低侵襲治療も、もちろんエビデンスに基づいた治療法です。しかし、その多くは「非劣性試験」によって構築されたエビデンスになります。これは、冒頭でお話ししたランダム化比較試験のような大規模ではなく、少ない症例数で新しい治療と標準治療とを比較する臨床研究を行い、「新しい治療法の効果は、許容範囲内で従来の治療法に劣るかもしれないが、ほかのメリットがある」といったことを確認する試験です。たとえばMICSでいえば、治療の内容が従来の開胸手術と同じならば長期的な成績は劣らないし、短期的には回復期間が早いというメリットがある、といった感じになります。短期的なメリットがクローズアップされれば、希望する患者さんも増えるのは当然です。
しかし、MICSなどの低侵襲治療のエビデンスは、「すでにエビデンスが確立している従来の治療の成果と同じ内容が提供できたら」という前提付きなので、両者を安易に同じものと捉えるのは間違いです。効果と安全性に対する信頼性は、従来の治療法のほうが高いといえるでしょう。
上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」