がんと向き合い生きていく

お正月が近づくと大学病院から白血病の患者が紹介されてきた

写真はイメージ

 毎年、私が一瞬だけうらやましいと思っていたのは、職員のスキーツアーに向かうバスが病院の前から出発する時でした。「行ける人はいいな~」と思いましたが、自分が選んだ道、選んだ科です。結局、1度もツアーに申し込むことはありませんでした。

 病棟では、正月前になると、退院が無理な患者に正月の外泊希望を担当看護師がそれとなく聞いて回ります。

「大晦日は自宅で過ごしたい」

「2、3日だけでも……きっと、これが最後の正月だと思うから……」

「元日の朝、家に帰って夕方には病院に戻る。それはできるでしょうか?」

 担当医と看護師長、担当看護師は、患者や家族の希望に沿って、一時的に自宅に帰れるか帰れないか、帰れる場合は何日帰るか、病状や治療を考慮してスケジュールを考えます。Aさんは腹水のたまり具合と食事の摂取状況から、自宅で過ごす期間は3日間が限度……。Kさんは抗がん剤治療後の白血球数の回復状況をみて、年末ぎりぎりまで決められない……など、個々の病状から検討されます。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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