それまでは心臓の冠動脈の入り口から心筋保護液を注入する「順行性投与」という方法が行われていました。ただ、この方法は手術操作の邪魔になってしまうので、持続的に投与するのは困難です。一方、逆行性投与は心臓につながる静脈の出口から血流とは反対向きに心筋保護液を送り込みます。これなら、たとえば冠動脈バイパス手術などでは手術操作の妨げにならず、持続的な投与が可能となるのです。
この逆行性投与は数多くの研究で「順行性投与と心筋保護の効果は変わらない」という結果が示され、一時期、心筋保護液の投与法として主流になります。しかし、逆行性投与には欠点がありました。投与した心筋保護液が心臓の全体に行き渡らないのです。とりわけ、右側の心臓=右心室や右心房には到達しづらいことがわかりました。
そんな欠点を克服するため、心筋保護液の投与法は、最終的に順行性投与と逆行性投与を組み合わせた方法に落ち着きました。現在、当院で採用している心筋保護の方法は、製薬会社から販売されている心筋保護液と、20度に冷やした血液を半分ずつ混ぜたものを、40分に1回の間隔で静脈側から逆行性投与し、60分に1回の間隔で動脈側から順行性投与するというものです。
上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」