上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

ダメージを減らす「心筋保護液」の投与法は進歩し続けている

天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 それまでは心臓の冠動脈の入り口から心筋保護液を注入する「順行性投与」という方法が行われていました。ただ、この方法は手術操作の邪魔になってしまうので、持続的に投与するのは困難です。一方、逆行性投与は心臓につながる静脈の出口から血流とは反対向きに心筋保護液を送り込みます。これなら、たとえば冠動脈バイパス手術などでは手術操作の妨げにならず、持続的な投与が可能となるのです。

 この逆行性投与は数多くの研究で「順行性投与と心筋保護の効果は変わらない」という結果が示され、一時期、心筋保護液の投与法として主流になります。しかし、逆行性投与には欠点がありました。投与した心筋保護液が心臓の全体に行き渡らないのです。とりわけ、右側の心臓=右心室や右心房には到達しづらいことがわかりました。

 そんな欠点を克服するため、心筋保護液の投与法は、最終的に順行性投与と逆行性投与を組み合わせた方法に落ち着きました。現在、当院で採用している心筋保護の方法は、製薬会社から販売されている心筋保護液と、20度に冷やした血液を半分ずつ混ぜたものを、40分に1回の間隔で静脈側から逆行性投与し、60分に1回の間隔で動脈側から順行性投与するというものです。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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