医療だけでは幸せになれない

マスクの効果を検討した「メタ分析」…1つの論文で多くの論文情報が手に入る

猛暑の中、日傘を差す人(C)共同通信社

 バイアスという点ではメタ分析の方がさまざまなバイアスの影響を受けやすい。「出版バイアス」といって、「効果がある」という論文が出版されやすいために効果を過大に評価してしまう可能性が高く、論文を選択する過程で「効果がある」という論文、また逆に「効果がない」という論文に偏って選ぶような作為が働く危険がある。個々の論文のバイアスはそのまま影響が残るし、さまざまな研究をごちゃ混ぜにすることで効果を過大に評価したり、過小評価したりする危険もある。

 この論文では4つの観察研究が含まれているが、観察研究では「効果あり」という結果が出たものが発表されやすく、効果を過大に評価する危険がある。事実、この論文で利用された観察研究のうちの2つには「重大なバイアスの可能性がある」と評価されている。

 ランダム化比較試験の統計学的に差がないという研究の解釈もそう単純ではなかったように、メタ分析の結果なら信頼できるというのも、またあまりにナイーブな考えである。

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名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。

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