正解のリハビリ、最善の介護

退院後に自宅で続けるリハビリはどんなものが有効なのか?

「ねりま健育病院」院長の酒向正春氏(C)日刊ゲンダイ

「進行性核上性麻痺(PSP)」という難病があります。40歳以降に発症し、初期から転びやすくなって転倒を繰り返すようになるのが大きな特徴です。以前、このPSPの77歳になる患者さんが来院され、「転ばないようにするためにはどうしたらいいでしょうか」と相談されました。そこで、先ほどの立ち上がり訓練を導入したのです。

 最初は、立って座ってという動作を連続5回くらいしかできませんでしたが、その患者さんは残存能力があったので、訓練を繰り返すことで連続30回できるようになりました。これを無理なく1日3回、合計90回行える状態になってから自宅に退院され、その後も立ち上がり訓練を毎日続けたところ、それからまったく転ばなくなったそうです。

 ただ歩く場合であれば、立っているところからスタートするのでそこまで筋力を必要としないでも歩くことができます。しかし、座っている姿勢から腕は使わずに背筋を伸ばしたままグッと立ち上がり、再びスッと座る動作は、脚の筋肉、腹筋、背筋を使います。ですから、立ち上がり訓練は、筋力と体力を維持するためにとても効果的なリハビリなのです。これは、PSPの患者さんだけでなく、筋力と体力が落ちてくる高齢者や、廃用症候群の患者さんなども含め、すべてに共通します。

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酒向正春

酒向正春

愛媛大学医学部卒。日本リハビリテーション医学会・脳神経外科学会・脳卒中学会・認知症学会専門医。1987年に脳卒中治療を専門とする脳神経外科医になる。97~2000年に北欧で脳卒中病態生理学を研究。初台リハビリテーション病院脳卒中診療科長を務めた04年に脳科学リハビリ医へ転向。12年に副院長・回復期リハビリセンター長として世田谷記念病院を新設。NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」(第200回)で特集され、「攻めのリハビリ」が注目される。17年から大泉学園複合施設責任者・ねりま健育会病院院長を務める。著書に「患者の心がけ」(光文社新書)などがある。

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