がんと向き合い生きていく

共感を超え、重篤ながん患者にずっと付き添う看護婦がいた

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

■一途な優しい気持ちで頑張っている

 かつて、そんな「共感」を超える事態に遭遇したことがあります。若いがん患者のGさん(27歳・男性)が重篤となって死に直面している時、思わぬ行動に出たのがA看護師です。職員に対しても管理が厳しい最近の病院では考えられない行動でした。

 A看護師は日勤の勤務時間を終えると私服に着替え、重篤となったGさんに付き添ったのです。さらに、夜勤の後輩看護師に、「この患者さんは私がみるから」と告げました。A看護師は翌日の朝から勤務予定でしたが、それもしっかり勤めると言い張るのです。

 後輩の看護師から見ると、A看護師は患者と一緒に倒れる覚悟のように思えました。病棟の看護長はA看護師を説得しました。しかし帰宅させようとしても、「私は患者の友人です! 友人が付き添ってなにが悪いのですか? 勤務は勤務でしっかりやります」と譲りません。私服になったら仕事ではない。患者と看護師ではなく、友人だと言うのです。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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