唐沢医師は、患者さんに放射線治療の最新装置であるヴェロを見せ、説明してくれたようでした。肺は呼吸によって動きますが、肺に転移したがんも同時に動きます。ヴェロはこの動く転移巣を追尾して放射線を照射する装置です。ミサイルを追尾して迎撃するのと同じ考え方で、まだ国内では少ない台数しかありません。
その後、患者さんは順調に治療を進めることができました。しかし、元気な唐沢医師の声を聞いたのは、期せずして電話をくれたあの時が最後となってしまいました。
唐沢医師は毎日、病院で夜中まで仕事をしていました。電話で話した10日後、その晩も深夜まで病院の医局の自室で、講演用のスライドを作成していたようでした。
急に胸痛を自覚し、救急室にたどり着いた直後、心停止してしまったのです。
翌朝、この悲報を聞いて、私はしばらくただ呆然としました。よく「役者は舞台で死ぬのが本望」などと聞きますが、彼はもっと仕事をしたかったでしょう。間違いないと思います。
がんと向き合い生きていく