第一人者が教える 認知症のすべて

「財布を盗まれた」と大騒ぎ…それがきっかけで認知症が発覚

正論はぶつけないで許容して…(C)日刊ゲンダイ
理解できる妄想、理解を超える妄想

 以前も本欄で紹介しましたが、アルツハイマー病やレビー小体型では、「妄想」がよく見られます。中でも「◎◎◎を盗られた」といった「物盗られ妄想」は、アルツハイマー病の妄想の75%を占めるという報告もあり、女性に多いとも指摘されています。

「物盗られ妄想」も含め、認知症での妄想の場合、どちらかというと「理解できる妄想」です。物盗られ妄想であれば、「自分が大事にしまった物の置き場所がわからなくなった」→「だれか(よくあるのは、身近にいる親しい人)が盗った」となってしまう。たとえばですが、「神様が天から降りてきて持っていった」「自分が天皇家の親戚だから強盗に入られた」といった、「理解を超える妄想」とは違います。

 そういった認知症の妄想に対して、周囲が「盗まれていない」と正論をぶつけても、本人を混乱させ、不安に陥らせるだけです。 

 本人が「盗まれた」と言うのを頭ごなしに否定はせず、「まずは捜してみようか」と一緒に見て回る。そうやって見つかったら、「よかったね、ここにあったね」と言うので十分。「ほら、やっぱり盗まれてなかったでしょ」と責めない。

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新井平伊

新井平伊

1984年、順天堂大学大学院医学研究科修了。東京都精神医学総合研究所精神薬理部門主任研究員、順天堂大学医学部講師、順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学教授を経て、2019年からアルツクリニック東京院長。順天堂大学医学部名誉教授。アルツハイマー病の基礎と研究を中心とした老年精神医学が専門。日本老年精神医学会前理事長。1999年、当時日本で唯一の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。2019年、世界に先駆けてアミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を導入した。著書に「脳寿命を延ばす 認知症にならない18の方法」(文春新書)など。

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