医療だけでは幸せになれない

論文世界と現実とのギャップを考える…人種より個々のばらつき

海外のデータをどう役立てるか(バングラデシュの首都ダッカ)/(C)iStock

 ここで1つの疑問が生じる。この研究ではマスクの効果を測るのに、「マスク装着を勧められながらマスクを装着しない人」もマスクを着けたグループに入れて解析しているのだが、マスクを実際に着けた人だけで検討したほうがいいのではないかという指摘だ。もっともである。マスクを装着した効果というのであれば、実際に着けていない人を含めるとバイアスになる。

 その反面、マスクをお勧めする効果という点で見ると、マスクを着けていない人も含めたほうがいいだろう。さらには、指示に従わずマスクを着けていない人と、指示を守って着ける人の背景は異なる可能性が高く、含めたほうがランダム化によるバイアスの除去が守られる可能性が高いというメリットもある。マスクを着けない人を含めることでマスクの効果は薄められる可能性はあるが、薄められた効果でも有効と言えれば、その結果の妥当性は増すということもある。

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名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。

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