がんと向き合い生きていく

替えがきかない命を紙切れ一枚で決めてしまっていいものだろうか…

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 元公務員のSさん(68歳)のお話を続けます。4年前、妻のKさん(66歳)に肺がんが見つかり、手術、化学療法、放射線治療を受けましたが、その2年後に脳梗塞を発症し、嚥下性肺炎を繰り返していました。

 ある日、肺炎が悪化して入院。Kさんは血圧が下がり、意識がはっきりしなくなり、呼吸が止まりそうになりました。医師から「人工呼吸器を付けるかどうか」を問われたSさんは、「何もせずに安らかに眠ってもらおう」と考えましたが、息子と娘の希望で人工呼吸器をつなげることになったのです。

 1週間後には気管を切開して人工呼吸器がつながれましたが、Kさんの意識は戻らないままでした。しかし、肺炎は回復して鎮静剤も減り、2週間後には人工呼吸器が外されました。それでも、Kさんは意識が朦朧としていることが続いたのですが、ある時からKさんに笑顔が見られるようになったのです。Sさんは「もし、妻が『人工呼吸器は付けない』と記した事前指示書があったら、いまこの笑顔は見られなかっただろう」と感謝しました。

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佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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