がんと向き合い生きていく

“捕らわれの身”と感じている友人が息子の話になると笑顔に

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 ◇  ◇  ◇ 

 朝、カーテンを開けると曇り空で、ビル群にまだ人の動きはない。

 以前、手術が終わってA病院を退院した時は、病院で支払いを済ませてから建物の外へ出て、クルマが行き交うビル群の下を健康な人たちと一緒になって歩道を歩いた。空は曇っていたが、とてもまぶしく、うれしかった。

「ああ、自由になれたんだ。シャバに出られたんだ。俺は笑って歩いている。おかしなヤツと思われるだろうが、そんなことはお構いなし。ああ、俺はシャバに出られたんだ」

 あの時の、あの気分を自分はもう味わえないのだろうか?

 ◇  ◇  ◇ 

 転院して最初に迎えた日曜日、Rさんは2時間だけの許可をもらって、普段着に着替えて近くのコーヒーショップに出かけました。

3 / 5 ページ

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

関連記事