がんと向き合い生きていく

「仁者は憂えず」の書を見て自分は毎日憂えていると思った

写真はイメージ

 当時、私は患者に対して「大丈夫です」と繰り返していました。しかし、大丈夫ですと言われても、昨夜も大部屋から個室に移って亡くなった方がいた……そのようなことを、こそこそ患者同士が話し合っていたこともありました。

 テレビではザ・ドリフターズの故・志村けんさんがうちわのような太鼓を手に、「だいじょうぶだ~」「だいじょうぶだ~」と唱え回っていた頃のことです。病院の個室で、患者のお子さんがうちわを持ちながら、「だいじょうぶだ~」とふざけてベッドの周囲を回っていた光景を思い出します。

■治療がうまくいかないと…

 ある時、がん性胸水がたくさんたまった患者が入院されました。胸腔にドレーンを入れて、陰圧にして数日で胸水を抜き切ります。ほとんど抜き切ったところで、ドレーンから抗がん剤を入れて、胸膜を癒着させ、胸水がたまらないようにします。胸水が抜け、肺が膨らんだ状態で胸膜内に抗がん剤を注入できると、胸水はたまらなくなるのです。ただ、肺が十分に膨らまず、胸膜がいびつに癒着して、胸水が再びたまることもありました。

2 / 4 ページ

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

関連記事