がんと向き合い生きていく

「仁者は憂えず」の書を見て自分は毎日憂えていると思った

写真はイメージ

 治療がうまくいけば患者と一緒に心安らぐのですが、有効な薬剤が少なく他の部位への転移が起こり、厳しい状態になっていく方もおられます。予想以上のがんの進行は、患者にも私にも大きなストレスでした。

 当時、M病院長は、私が転居したことを知って、毛筆で「仁者は憂えず」と書いてくださいました。私はそれを額に入れ、リビングに飾りました。論語に「子曰く『知者は惑わず、仁者は憂えず、勇者は懼れず』」とあります。「仁者は憂えず」とは、「仁者は仁徳があり、あれやこれやと心配することはない」と解するようです。

 ある人は「いい字だね。さすがM院長先生だ。あなたは幸せだね」と言ってくださいました。また、中国からの留学生を自宅に招待した時にはとてもほめてくれました。当時、その書をずっとリビングに飾ったままにしていました。字をほめる人、文をほめる人、いろいろです。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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