医療だけでは幸せになれない

コロナと「EBM=根拠に基づく医療」の実践 高血圧の治療がきっかけ

写真はイメージ

 少し具体的に書いてみよう。私自身のEBM実践のきっかけのひとつに“高齢者の、上の血圧だけが高いという人たちに降圧薬を使うかどうか”という疑問があった。病気のメカニズムである病態生理中心の教育を受けていた私は、次のように考えていた。

「高齢になって動脈硬化の進行により動脈が硬くなると強い圧力で血流を送り込まなければ臓器の血流が悪化する。上の血圧が年齢とともに上昇するのは、動脈硬化による血流悪化を防ぐための対症的な生体反応で、血圧を下げてしまうのはかえって脳梗塞や心筋梗塞を増やすことになるのではないか」

 しかし、上記の考えが誤りであったことが判明する。1991年、60歳以上の、上の血圧が160㎜Hg以上の患者を対象にしたランダム化比較試験の結果が報告されたのだ。

 その結果は、4.5年で9.2%の脳卒中が、5.5%にまで少なくなるというものであった。

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名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。

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