医療だけでは幸せになれない

コロナと「EBM=根拠に基づく医療」の実践 高血圧の治療がきっかけ

写真はイメージ

■覆す研究がなければ判断は強化される

 この論文を読んで最初に思ったことは、病態生理で考えると間違うこともあるということと、上の血圧だけが高い高齢者の高血圧は降圧薬で治療をすればいいんだということであった。これで外来の患者で困ることはない。そういう気持ちであった。今風に言えば、ランダム化比較試験という質の高い研究で統計学的にも有意というエビデンスがあるので、降圧薬の投与が強く推奨される、というわけだ。もういろいろ考える必要はない、そう考えた。

 もちろん、たかだかひとつの研究結果をもとに判断するという問題はある。

 ただこの後もSyst-Eur研究によってこの結果は確認され、それ以降もこの結果を覆すような研究は報告されていない。その中で、降圧薬を投与すればいいという判断はさらに強化されていく。判断は強化されるが、それがよい判断なのかどうかは、かえって怪しくなる。ぐずぐず考えることが増える。それが今につながっている。

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名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。

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