しかし問題はその期間です。
ガイドライン初版(2004年)では「術後5年間」とされていました。ところが最新版(2018年版および追補2019)には、浸潤性乳がん(ステージⅡの一部とステージⅢ)に対しては、タモキシフェンを5年投与したのち、さらに5年間追加(計10年間)することを「強く推奨」しています。あるいは最初の5年間のうちに閉経した場合は次の5年間はアロマターゼ阻害薬、最初から閉経している患者は最初からアロマターゼ阻害薬を合計10年間となっています。
乳がんはしぶといがんです。大抵のがんは、5年間再発しなければ完治と判定されるのですが、乳がんは5年以上経っても再発することが珍しくないのです。そこで多くの臨床試験が行われた結果、ホルモン療法を延長するのが良いという結論になったのでした。
ガイドラインの改定以前に治療を始めたひとにとっては、根耳に水の話です。もうじき治療が終わると思っていたら、医者から「あと5年続けましょう」と言われてショックを受ける人もいます。
しかしガイドラインはあくまでも診療の指針であり、必ず従わなければならないわけではありません。まずは主治医とよく相談し、悔いのない選択をするべきでしょう。
乳がん<7>髪が抜けることはない手術後の「放射線治療」
- 2020年01月05日
乳がん<9>「再手術」の記述の変化と「ステージⅣ」の治療
- 2020年01月07日
永田宏
長浜バイオ大学コンピュータバイオサイエンス学科教授
筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。